ドラクエをプレイしていて一番感動する場面ははがねのつるぎを購入したとき

なのです。これは僕が数年前から結論付けをし続けていることであり、異論は認めません。具体的に「○○のシーンが感動するよぅ〜」などとほざきやがるドラマチックで映画的展開がお好みな人はファイナルファンタジー派に改宗してもらうの刑TSUTAYAに強制送還します。はがねのつるぎったらはがるのつるぎなんです。あ、でも6のEDのバーバラには全俺が泣いた

増えゆくおこづかい

僕達ファミっ子は、そう、親からのお小遣いというリソースが乏しかった少年時代、ひとつのゲームを買うにも何ヶ月も何ヶ月もお金を溜め続けた。自動販売機の下や釣銭に眠っていた小銭を発見したときには何者にも替え難い感動があった。僕達はお金というものを大切に大切に扱っていた。

そしてついに、お金が溜まった日、高鳴る胸の鼓動を抑えつつ、僕達は近所のゲームショップに行ったんだ。お目当てのカセットはもちろんドラゴンクエスト。「これで明日からクラスの皆の話に入れるぞう!」だとかこれまで自分が考えていた勇者像などを思いに馳せながら、夕暮れの帰り道で自転車を飛ばして帰っていったんだ。

とめどなく失われていくゴールド

RPGのプレイ経験か薄く、ましてや現実の世界でもなかなか買い物なんてしないのだから財テクも知らない、そんなファミっ子たちはただただ冒険が出来るという嬉しさのみの感情で、こちらの仮想世界でのお金を躊躇なく浪費してしまう。買わなくてもいい武器・防具に金を注ぎ込み、次のダンジョンの宝箱から買った物と同じ装備が出てくるなんていうのはよくあるお話。戦闘にも慣れないうちには、モンスターにも度々やられて、王様に叱られる頃には手持ちのゴールドは半額になっているし、教会で仲間を蘇生されるのに必要な寄付で更にゴールドを使用してしまう。

結果、彼らが中盤の場面に辿り着く頃には、堅実にプレイする今の僕達のぼうけんのしょより、ゴールドや装備といったゲーム内リソースのなんと乏しいことか。今の僕達はキッチリと全員分の装備が整っており、可能な限りゴールドは安全銀行に預けておく。彼らは宿屋で止まる分のゴールドで精一杯なんだ。


霞を食って生きている最中に、彼らが武器屋で見つけてしまうものが、このはがねのつるぎである。

価格は、作品によってはマチマチであろうが、大体そこまでに出てきたどの武具の価格よりも遥かに高い値に設定されているだろうはがねのつるぎ。並んでいる商品のなかでも一際目立つその飛び抜けている価格、はがねのつるぎが並大抵の武器ではないことを簡単に理解できるだろう。全財産をはたいてでも、その洗練された姿形の剣を購入することが出来ない貧民である彼らは、このはがねのつるぎのために、現実世界でドラクエを買うために行っていた「努力」を再びこちらの世界で実行するのである。

はがねのつるぎはスゴイ

はがねのつるぎ、と聞くだけで今でもドラクエを連想させる人はさぞかし立派なファミっ子だったのであろう。そしてまたそれの入手に至るまでの苦労も知っているのだろう。

彼らはとにかく敵を倒した。倒しに倒しまくったお陰で、敵の集団パターンごとの落とすゴールドまで暗記するくらいになってしまった頃には主人公達のレベルも上がっており、更にゴールド稼ぎを繰り返して遂にはがねのつるぎを購入することが出来る金額に至った。残りゴールドが限りなく 0 に近付こうとも、彼らも僕もはがねのつるぎを購入した。主人公の装備欄の一番上の「E はがねのつるぎ」という文字が輝いて見える。

ドラクエというゲームは、数字の域が小さいので*1、わずかなダメージの上昇などにも敏感になりがちにさせてくれるのだが、はがねのつるぎはスゴイ。IIIを例に挙げると、大体の勇者がはがねのつるぎ前に装備しているであろう武器がくさりがまで、攻撃力24なのだが、一方はがねのつるぎは攻撃力33。今までくさりがまで戦い慣れていた相手をはがねのつるぎで斬りつけてみると、必ずしもダメージの十の位の数字が1以上上がっている(例: 25→35ダメージ)ことは間違いないだろう。わすがな数字の上昇に敏感になっている僕達にとって衝撃的な上がり幅なのだ。全体攻撃できる点で重宝されがちなブーメランなんかは攻撃力18なのだから尚更である。

はがねのつるぎを持った勇者は絶対的に強い、はがねのつるぎはスゴイという観念がPT内に生まれる瞬間である。じごくのハサミにもちょっとダメージが通るようになった!うれしい!

ドラクエIVは、はがねのつるぎを裏切った

いきなり何のことかと述べると、それはやはりIV初登場のはじゃのつるぎのせいである。

IVのはがねのつるぎは攻撃力40なのだが、はじゃのつるぎは45なうえ戦闘中に道具として使うとギラの効果があり、尚且つはじゃのつるぎ自体の入手が容易であることから、はがねのつるぎは退場せざるを得なくなったのだ。

入手が容易というのも、第一章のライアンなんかは洞窟(塔だった?)でLv一桁にしていきなりはじゃのつるぎを拾っちゃうし、第三章のトルネコなんかはスライムですらはがねのつるぎの入った宝箱を落とすという世界で、容易にゴールドを稼ぐことができ、更にはトルネコのお店へ稀にはじゃのつるぎを売りに来る人間が現れると、翌日店のラインナップにはじゃのつるぎが追加されるので、敵の落とした原価タダ当然のはがねのつるぎで稼いだゴールドを使ってそれを買ってしまえるということだ。な、なんたる侮辱…!


数多の少年たちの夢だったはがねのつるぎを打ち壊したドラゴンクエストIV。V以降もはがねのつるぎが手に入る頃にははじゃのつるぎが出しゃばってくるような気がする。ショーケースの中のトランペットを欲しがるような眼差しの少年は、もういない。

はがるのつるぎとの離別

毎シリーズ、僕ははがねのつるぎ以降の最強装備までのつなぎになる装備は正直あまり覚えていない。それはやはり入手までに自発的な努力があったことや、はがねのつるぎ自体が結構な長い時期、徐々に強くなっていく敵に対しても十分に対抗し得うる武器であるからこそに尽きるだろう。

しかしそんな勇者達にも、かつて輝いて見えたはがねのつるぎが色褪せて見えるときが来る。ローレシアの王子は難所、ロンダルキアの洞窟から苦労して発掘したいかづちのけんを使うし、すけさんだってはやぶさのけんをいっちょまえに振るう。III戦士はまじんのオノで豪快に戦う。はぐれメタルも一発だ。

いずれも、かつてはがねのつるぎで与えていたダメージが雀の涙ほどに見えてくるほどの超スゴイ武器だが、勘違いしてはならない。ゲーム終盤の大ダメージ化は、武器の攻撃力のみならず、はがねのつるぎを入手した後に長い間、この重く、重い剣に振り回されたことで鍛えられた力によるものも、その大ダメージの中に凝縮されているのである。今日、魔王が倒され世界が平和なのははがねのつるぎのお陰と言っても多分過言ではない。感謝しなければならない。ありがとう、はがねのつるぎ

*1:序盤、中盤は2桁、終盤で主要キャラの攻撃、呪文が100ダメージを超えるといったところか。